THE CELLAR NEWS

「今は昔、オーストリア紀行」第壱日目

この文字の羅列に込められた想いは、「皆さんに、オーストリアワインを飲んで欲しい。」という、これだけに尽きる。

今から書く文章が、どんなにそのスローガンから逸脱しようと、どんなに支離滅裂になろうと、私の想いはいつも同じ場所にある。電子と同じである。もし皆さんが、私のテキストを仮に読んで、「何言ってんだ、こりゃ」と思ったとしても、それは確率論的な軌道内にあって、原点は変わらない。

「皆さんに、オーストリアワインを飲んで欲しい。」

半年前になる。

北欧的デザインとは、いやはや経済格差を是正する領域にまで達していたか。フィンランド航空のエコノミークラスの快適さに、半ば心酔しながら成田を発った。猫背で、座りが浅く、上背だけは無駄に高い私にとっても、非常に満足度の高いシートだった。何しろ足元が広い。

空港からタクシーに乗って、ホテルへと運ばれる過程は、最早貨物と同然であった。貨物との違いを述べるならば、それは、私には眺めるべき車窓が与えられており、「わぁ、すごい」と窓外に広がる、おそらく歴史的と思われる建築物に目をパチクリとさせることを許されていた、それだけである。その時に撮影した動画は、いつどのように見ても酷いので掲載はしない。

ホテルは素晴らしかった。

透明なシャワールームが気持ち悪いとの声も聞いたが、独りであれば透明もクソもない。

朝食は二日酔いで、2日目にしか食べていないし、大画面液晶テレビも一度たりともつけず、ルームサービスも呼ばなかった。天井まで及ぶ観音開きの窓を開けて、冷蔵庫にあるわけのわからんビールを飲んで、重厚なデスクに脚を置きながら、深くチェアに腰を鎮める。私は幸せであった。これが、用意されたエスコートなのだから恐ろしい。私は、AWMBが用意してくださった期間を2日延長してこのホテルに滞在することになるが、2日滞在の金額たるや恐ろしいものであった。身分のせいだろうか。

テーマは、勿論ワインだった。

当たり前だ。

私は、ワインを扱う仕事に従事しているし、ワインを主眼においた旅でないと、問題が生じる。そして形式的に出現した経費と名のつく肥やしへ精算に行き場がない。私をオーストリアに導いてくださったお客様、輸入元ヘレンベルガーホーフ社、そして弊社スタッフ一同への感謝。CH3OHの消化に刻苦した我が脳味噌及び、肝臓、腎臓をはじめとする臓器諸兄への陳謝を持って、そろそろ話を前に進めたい。


ウィーン市街のホテルへの到着。眠いのだか、楽しいのだか、腹が痛いのか、よくわからない時分だ。私は時を同じくしてウィーンに到着したワイン業界の諸先輩方に連れられて、市街地にある河川敷へと下った。ウィーン市街にも、コンクリートに縛られた神田川的緩流が右往左往しているらしい。段丘の壁面には、ジュヴナイルなポスターカラーが歪で脆い主義主張を叫んでいた。なんだか国が違うと、こういうものでも、潜在的芸術性が突然光って見えたりする。上流へ進んで行く。若気の至りが次第に濃度を低め、水辺の草が背を高く生い茂る。一体どれくらい歩いたか、そんなところにあった。
「ウェルカムパーティ」会場だ。よく出来たプレハブといったところか。川沿いに長く伸びた洒脱な木造建築物が、最初の会場だった。

「ウェルカム」についても「パーティ」についても、咀嚼嚥下消化排泄までを円滑に執り行った実績のない私は少々辟易していた。
紛いなりにもフランス滞在経験を僅かばかり持つ私にとっては、日本固有の宴席形式より、欧風のパーティの方が、少々経験が深い。が、その結果磨かれたのは「あたかも孤高の人間として振る舞う」という屈折したアビリティのみだった。この屈折率の芸術性については、恐らく他の追随を許さない。
幸か不幸か、本パーティにおいても、かの類い稀なるソリチュードをオーストリア初公開することとなった。

脚色が過ぎた。

ともあれ、ドギマギしながらも、私は私なりにエンジョイした。写真はほとんど存在しないが、赤だか青だかよくわからない照明に彩られた空間と、その中での程よい喧騒は、「ガンゲット」を思わせ、ノスタルジーに浸るに十分だった。

本ウェルカムパーティー、位置付けとしては、当日より2日後に始まる「Vievinum」の「品定め」と言ったところか。私は日本からの数少ない招待客として、その末席を汚した次第だ。
約50種類のテイスティングができた。
テーブルが川に面したテラスに沿って並べられ、VieVinumのサービススタッフたちが、忙しなくワインを注ぎ、各国から訪れている招待客たちに、多種の言語で解説をしている。
話し始めたら最後、非常に長々と会話を続けていく、欧州のコミュニケーション上級者たちの影で、私は「Can I try this one?」以外の発話を最小限にとどめながら、せっせと試飲アイテムを消化していった。


暗い上に、騒々しい会場内では、まともにメモを取る余裕がなかったが、いくつかのワインは非常に鮮烈なかたちで印象に残った。
「ラングマン シルヒャー ゼクト」の、今までに味わったことのないの複雑な清涼感は衝撃的で、モリッツのブラウフレンキッシュは圧巻であった。ブラウフレンキッシュの完全体のように思えた。
50種類の殆どが、私の知らないワインであり、私の知らない味わいであり、
同時に、会場には数十種類のビュッフェが用意されていた。エコノミックな機内食に限定された12時間を経ている消化器官諸兄を大いに刺激した。
混雑ゆえに、着席することがかなわなかった私は、フォークとナイフを使った立食と言うアクロバットに甘んじたが、料理は非常に美味しかった。
特に、目の前で焼いて提供される肉の塊は、エコノミックな機内食に限定された12時間を経ている消化器官諸兄を大いに刺激した。

「Vievinum」の説明に関しては、3日目の記事に詳細を譲る。

到着早々、すっかり酔っ払った私は、疲労とアルコールに混濁した意識の中で、ふらふらとホテルに帰りついた。